弁護士人口の増加ペースが法的サービスの需要の増加ペースを上回って進行した結果、弁護士1人あたりの事件数は、近年減少傾向にあり、現在ではピーク時(2003年)の3分の2程度となっている。
ここ数年は、2006年ごろから急増した過払い金返還請求を中心とした債務整理業務が受任事件数を下支えしている。しかし、将来を見据えると、2010年6月に改正貸金業法が完全実施されたことを受け、破産事件が一時的に増加する可能性はあるものの、数年後には弁護士1人あたりの事件数が減\することは明らかである。
こうした環境の変化に対して、従来通りの紹介を中心とした案件獲得のみでは、法律事務所経営が成り立たなくなると考えられる。そこで、積極的に顧客獲得・市場拡大に乗り出すことが必要なのである。
顧客獲得の方向性としては、(1)顧問先企業の開拓、(2)市民の法的ニーズの掘り起こし、が考えられる。
(1)顧問先企業の開拓については、顧問契約を結んでいない中小企業をターゲットとし、費用に見合った適切なサービスを提案することで、顧客の獲得を図る(詳細は後述)。
(2)市民の法的ニーズの掘り起こしについては、市民に対して法律事務所の利用シーンをアピールし、顧客の獲得を図ることになる。この場合、アピールの手段としては、不特定多数を対象とするマス広告が主体となってしまう。マス広告は一般に多額のコストがかかるため、コストを抑えつつ、効率よく受任件数を増やすためには、工夫が必要となる。
コストを抑える工夫のひとつとして、潜在顧客(例:交通事故被害者)と密接なかかわりを持つ第三者(例:損害保険代理店)にアプローチを行い、その第三者から案件を紹介してもらう方法がある。この方法であれば、アプローチ対象を絞れるため、アプローチコストの削減が図れるとともに、潜在顧客は自分に関係のある者から弁護士の紹介を受けるので、弁護士に対する心理的な抵抗感も低くなり、受任につながりやすいといえる。
個人を対象とした事件を中心に扱う法律事務所では、債務整理の次の展開として、以下の分野に力を入れ始めている。
被害者側に過失がないケースでは、被害者側の保険会社の示談代行サービスが使えないことから、賠償金額を低額に抑えられているケースが多い。そこに弁護士が関与する余地がある。
高齢化社会の進展に伴い、高齢者特有の法律問題(生前贈与・遺言・財産管理・成年後見・遺産分割・遺言執行)が増えている。福祉・介護の現場でも、高齢者に対する法的サポートが不十分であり、多くの問題を抱えている。
1999年以降、離婚件数が年間25万件を超える状態が続いている。慰謝料・財産分与・親権など、デリケートな問題が多く、弁護士には単なる法的サポートだけでなく、心理面のサポートも期待されている。離婚以外の男女間のトラブルも含めると相当な数になる。
賃貸マンションに関するトラブル(敷金返還・原状回復・家賃の滞納等)が近年増加傾向にあるほか、更新料返還請求訴訟の結論によっては、更新料返還請求訴訟が急増する可能性もあり、貸主側・借主側双方に弁護士が関与する余地があるといえる。
サービス残業・未払賃金は、証拠の問題をクリアすれば、比較的結果が見通せる案件であることから、今後顧客獲得競争が激しくなると見込まれている。当然、企業側から防衛を依頼されることも増えるであろう。
これまで収益を得るという点では注目されてこなかった分野だが、無料相談、24時間対応、案件処理のスピードなど、サービス面で特色を出し、刑事弁護専門をうたう法律事務所も登場してきている。