ターゲットにアプローチし、その反応を待つだけでは、成果が上がりにくいため、積極的にアポイントを取りに行くべきである。
通常であれば、代表番号に電話をかけても、受付レベルで断られるのが大半である。それゆえ、一般企業では「受付をいかに通過するか」がアポイント取得のひとつの山場となり、断りに対する切り返しパターン(トークスクリプト)を作成したりする。
しかしながら、法律事務所や弁護士からの電話であれば、(現在のところは)担当者まではつないでもらえるだろう。担当者が不在の場合は名前を確認し、改めて電話する。
私ども鈴木・佐藤法律事務所では、御社のような製造業の法務サービスに力をいれております。先日、御社に当事務所からご案内をお送りさせていただいたのですが、法務担当の方はいらっしゃいますでしょうか。
(いないといわれた場合)主に契約書の作成や管理をされているのはどなたでしょうか?
(法務担当者に代わったら同様の自己紹介をし)
今までに法律事務所や弁護士とのお付き合いはありましたでしょうか?(ない)では日常的な法律業務は△△様がご担当されているんですね。御社での法律業務の中心はやはり契約法務でしょうか?(Yes/No)なるほど・・・
今回はご挨拶かたがた、(※1)~分程度で結構ですので、法務サービスを(※2)今後どのように事業に活かせるのか、どのように御社の成長のバックアップになるのかをお話しさせていただければと思いますが、(※3)情報交換の意味でも(※4)今週か来週あたりでお時間をいただけませんでしょうか。
(トークのポイント)
※1 取ってもらう時間を明示して、相手の不安(「長時間居座られたらどうしよう」)を軽減する
※2 アプローチ段階で話す内容の限界を示しながら(商談にいたらないことを暗に伝える)、アポ取りの名目を告げる
※3 情報交換目的だと、相手も予定を入れやすい(商談と違って決裁権限も不要なので、社内を説得しやすい)
※4 選択肢を示して、決めてもらう
佐藤弁護士は、重点ターゲットに設定した50社に電話をかけてみた。最初は上手に話せず、相手に苦笑される場面もあったが、弁護士が電話をかけてくるという物珍しさも手伝ってか、4件のアポイントが取れた。
事務所案内を鞄に入れ、アポイント先に向かった。
ヒアリングの目的は、ターゲットが持っている課題(ニーズ)を顕在化することである。ターゲットによっては、「○○について困っていまして…」と、最初から課題を明らかにしているケースもある。しかし、この場合でも、本当に解決したい問題が何であるのかを吟味する必要がある。
ヒアリングには十分な時間をかけるべきである。時間をかけて話を聞くことで、相手の信頼を獲得することができるからである。
課題を発見するには、言い方は別として「何かお悩みはありますか?」「何かご不満はありますか?」「何かお困りではありませんか?」といった問いかけが有効である(この問いかけは、興味を引き出す際にも有効である)。もし本当に困っているのであれば、相手から話してくれるはずである。
また、法的課題の場合には、本人が意識しない問題点が潜んでいる場合が多々あるため、どのような場合が問題であるかを過去の事例などをもとにまとめた案内(事例集)を作成することも効果的である。ターゲットに見せながら、同様の事例で困ったことがないかを聞いていくという使い方もできるし、弁護士にとっても、ヒアリングの話題を広げる助けになる。
ヒアリングにおいては、課題の顕在化に加えて、競合が何であるのかを把握することも重要である。
この場合の「競合」とは、「潜在顧客が課題を解決する際に頭に思い浮かべる選択肢のすべて」である。したがって、他の法律事務所だけでなく、書籍や社内人材(法務スタッフ等)、他の専門士業(税理士・社労士・行政書士等)、金融機関、ターゲットの同業者なども「競合」である。
提案にあたっては、これらの競合に対する比較優位を示す必要がある。
御社ではこれまでに法的トラブルに遭遇したことはありませんか?
(ない、または思いつかない)例えば、売掛金の回収ができなかったことや、取引先が倒産したというようなことはありませんでしたか?あるいは、契約書の内容が不公平で、相手方に言いたいことも言えなかった経験はありませんか?
※このような質問を積み重ねることで、その企業の法的課題を明らかにしていく。多くの場合、企業側は「そのような問題は弁護士をわざわざ使うまでもない」と考えているため、些細なことでも拾い上げていくことが重要
なるほど。これまでそういったトラブルが起きたときにはどのように対処されてきたのですか?(自社内で対応、他の専門家に相談)その際に弁護士を利用することは考えなかったのですか?どうして弁護士を利用しなかったのでしょうか?
※顧問契約を獲得するにあたって競合関係にあるものを確認する。何を基準に弁護士以外を選択したのか、その判断基準を明らかにすることも重要
(判断基準)の点がクリアできれば、弁護士を利用しようと思いますか?
……
ヒアリングのアポイントが取れたターゲットについては、ヒアリングシートを作成すべきである。後で確認しやすいというだけでなく、ヒアリングしたい内容を予めまとめておくことで、項目の漏れや内容のばらつきを抑えることができる。
ヒアリングシートを蓄積していき、見込み客となりそうかどうかを判断していく。
アポイント先でのヒアリングを終え、佐藤弁護士はヒアリングシートに今日の結果を記録していった。どうしても法律相談のように要点だけを聞き出そうとしてしまい、先方がやや窮屈そうだった。
ただ、親事業者との関係にはかなり悩んでいる様子。下請法に抵触するようなケースも少なくないらしい。契約書のチェックと契約前のアドバイスでだいぶ状況は変わりそうな気がする。次回はこのあたりを中心に提案することにした。